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児童発達支援・放課後等デイ


読みもの

すぐ実践できる!「アンガーマネージメント」

解説 2022.07.09

ヴィストカレッジディレクターの林原です。

前回の読みもので、「攻撃的な反応をする子どもへの対応コツ」を書かせていただきました。

それを読まれた方の中で「実際に怒ってしまったお子さんに対してどう対応したらいいの?」というご質問がありました。

また、現在、石川県の某支援学校へ「就労サポーター」として、一般就労を目指す高校生へのアセスメントと授業を担当しています。

アセスメントには、包括的にソフトスキルをアセスメントできる「BWAP2」を使用しております。(BWAP2に関しては、別の機会にご説明させていただきます。)

その中で、認知機能が高い方で一般就労を目指す子どもたちは「感情のコントロール」に課題がある方が多い印象です。

BWAP2で言うと「対人関係(IR)」と言うカテゴリーの

「項目6:同僚への配慮(同僚と仲良くやっていける能力)」
「項目8:感情の安定(イライラしたり気分が高揚した場合)」
「項目12:破壊的行動(無作為に選んだ1週間内で起こす破壊的行動の頻度)」

が感情のアセスメントにあたります。

この項目が低い方が多く、低いと就労場面で問題が起こる可能性があるため、担任の先生も支援方法に関して悩まれていました。

今回は、感情の中でも「怒り」に焦点を当てた、「アンガーマネージメント」に関してお話をさせていただきます。

アンガーマネージメントとは何か?

アンガーマネージメントとは

・アンガー → 怒り
・マネージメント → 取り扱う

つまり「怒る必要のあることは上手に怒り、怒る必要のないことには怒らないようになること」です。

ここで注意したいのは、アンガーマネージメントは「怒らないことではない」ということです。

怒りの感情とは人間の「自然な感情」です。

精神科医で早稲田大学の西多昌規さんは「怒りに密接に関わるのが、脳の中心部にある大脳辺縁系の中の扁桃体」「扁桃体は恐怖や不安、緊張などに反応します」(2017)と述べています。

人間は、生まれて4〜6ヶ月で欲求不満状態と関連して「怒り」が、少し遅れて「恐れ」が表出され、その後、さまざまな感情が表出し、3歳頃には感情表出は大人とほぼ変わらないものになると言われています。(発達により個人差あり)

画像はイメージです

そもそもこの「怒り・恐怖」という感情は生きるために必要な感情です。動物界では命に関わる機能です。

肉食動物が草食動物が迫ってくる際に逃げる行為は、この「怒り・恐怖」の感情が働いたからです。人間も古代からこの「怒り・恐怖」という感情があるからこそ、種を保つことができたと思われます。

「怒り」の感情は無くすことはできないため、「怒り」の感情とうまく付き合う必要があります。

アンガーマネジメントができるようになるとはどういうことか?

アンガーマネージメントができるようになることとはどういう状態でしょうか?

怒りを無くすことではないということはお分かりいただいたと思います。ヴィストカレッジでは、中高生向けの事業所を中心に「アンガーマネージメント」のワークを実施しており、下記のような状態を目指しています。

① 後悔しないこと……怒る必要のあることには上手に怒り、怒る必要のないことは怒らなくなる。
② 上手に表現できる……怒っていることが上手に表現できる

また、怒りには問題となる4つの性質があります。
① 強度が高い:一度怒ると止まらない、強く怒りすぎる
② 持続性がある:根に持つ、思い出し怒りをする
③ 回数が多い:しょっちゅうイライラする、カチンとくることが多い
④ 攻撃性がある:他人を傷つける、自分を傷つける、モノを壊す

「怒り」がコントロールしにくいのは、この問題となる怒りの性質があるからです。

怒りの性質を理解し、自分の今の状態を把握し、後悔しない方法、タイミングで、必要に応じて上手に起こっていることを表現できる、これがアンガーマネージメントです。

画像はイメージです

「怒り」は2次感情

「怒り」の感情は、「2次感情」と言われています。

1次感情とは、「心配」「悲しい」「辛い」「不安」「疲れ」などです。

「怒り」の感情の前にはこのような1次感情が発生している可能性があります。

私が保育所等訪問支援などで学校を訪問していると、子どもの喧嘩などのトラブルが起こるのは、午後になってからが多い傾向にあります。これは、学校で午前中の授業の「疲れ」や昼ごはんを食べた後の「眠気」、感覚過敏のあるお子さんは感覚的疲労の積み重ねがあると思われます。

画像はイメージです

どうやって「怒り」を上手に表現するか?

① 怒りの感情のピークは6秒

一般社団法人日本アンガーマネージメント協会によると、怒りのピークは長くて6秒間とされています。

これは、怒りの感情には脳の扁桃体が反応し、「アドレナリン」というホルモンの分泌のピークが長くて6秒と言われているからです。

つまり、怒りを感じたらこの「6秒間」をなんとか乗り切る必要があります。アンガーマネージメント協会では下記のような方法を紹介しています。

・ゆっくり数を数える
・深呼吸する
・「自分が何にイライラしているのか」を指を使って手のひらに書く

また、その場を離れる、目をつぶる、という方法も効果的です。

その方によって、また、学校や職場の環境によってできる方法も異なると思います。
まずは「6秒を乗り切る」。一度、冷静な自分に戻ることが得策です。

② 「怒り」を適切に伝える「ソーシャルスキルトレーニング」

ソーシャルスキルとは、「対人場面において相手に適切かつ効果的に反応するために用いられる言語的・非言語的な対人行動(相川,1999)」のことです。

ソーシャルスキルトレーニングとは、ソーシャルスキルを身につけるための練習です。
学校や職場では「援助要請」のスキルが特に重要です。自分が怒りと感じた時に、それを先生や職場の上司にどのように相談し、解決を測っていくかです。

ヴィストカレッジでは、テーマを設定し、スタッフや他のお友達のロールプレイ見て実演することで適切なソーシャルスキルを学習するトレーニングを実施しています。

また、VRを使用したトレーニングも行っています。

VR支援の例「誰かを励ます時に大事なこと~VR動画を用いた集団SSTの取り組み~

「怒り」を感じる1次感情を理解することも大切

「人間は「怒り」を感じるのは自然である」とお話しましたが、その怒りを感じる元となる「1次感情」は人によって異なります。

私は、「眠い」「疲労」の1次感情が溜まった際に、怒りの感情を表出しやすくなるのを自覚しています。ですので、「やばい!」と感じた際は、10分程度の仮眠をすることで心理状態を安定させるようにしています。

お子さんは年齢や、学校種別、子どもの特性によって1次感情の感じ方は異なります。

例えば、ADHD(注意欠如多動性障害)で、メタ認知(自分の認知を客観的に認知するスキル)が弱いお子さんは、学校が休みの日に公園で体いっぱい動いた後、「疲労」の1次感情がいっぱいになっている状態なので、ちょっとしたストレスで「怒り」の感情が発動しやすくなることがあり、帰りの車の中や、お昼ご飯の前など爆発する可能性もあります。

疲労した後に、ちょっとした休憩を子どもにしてもらうと、次の活動に移行しやすくなる可能性は高くなります。お子さんの爆発する前の「サイン」を見逃さないことも重要です。

お子さん自身のアンガーマネージメントのトレーニングとともに、お子さんの一次感情を理解し、それが溢れ出す前に、本人に援助要請を促すアプローチも有効です。

[引用元・参考文献]

・名越康文監修「もうふりわされない!怒り・イライラ」日本図書センター

・SANKEI BIZ『なぜ分別のある大人なのに耐えられない? キレる中高年が増加、「IT化」との関連も』(2017)
https://www.sankeibiz.jp/econome/news/170806/ecb1708061305001-n1.htm

・相川充(1999)中島義昭他編「心理学辞典」p.371、有斐閣

執筆者:林原洋二郎
ヴィストカレッジ ディレクター。公認心理士。富山大学大学院人間発達科学部修了(教育士)、金沢大学子どもの心の発達研究センター研究員。富山福祉短期大学非常勤講師。物流企業の営業職、広域通信制高校センター長を経て現職。発達障害の就労支援と発達に特性を持つ子どもの療育(発達を促し、自立して生活できるように援助すること)に従事。『放課後等デイサービスにおけるプログラミングを利用した自己肯定感を育む支援』(日本教育工学会論文誌/2021)など多数執筆。

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