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児童発達支援・放課後等デイ


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発達に特性のある高校生のキャリア支援と放課後等デイサービスの役割

解説 2022.08.26

ヴィストカレッジディレクターの林原です。

放課後等デイサービスには、小学生から高校生まで幅広い年代の方が、さまざまな理由で通所されています。ヴィストカレッジは、ヴィストグループに「就労移行支援」と「就労継続支援」を行っているため、高校卒業後の進路決定が理由で通所を決められた方が多いと感じています。

現在の教育制度では、特別支援学校以外の高校を卒業される、発達に特性があり、知的に遅れのない方が、高校卒業後に最も困難を抱えるケースが多いと思われます。

本日は、特別支援学校以外の高校に在籍する生徒のキャリア支援と、放課後等デイサービスの役割に関してお話をさせていただきたいと思います。

放課後等デイサービスとは?

放課後等デイサービスとは、2012年に児童福祉法の改正に伴い創設されたサービスです。

対象者に関しては「学校教育法第1条に規定する学校(幼稚園及び大学を除く)に就学している6歳から18歳の障害のある子ども」(児童福祉法)とされています。2015年の「放課後等デイサービスガイドライン」にはサービス内容として以下の4つが書かれています。

・自立支援と日常生活の充実のための活動
・創作活動
・地域交流の機会の提供
・余暇の提供

昨今では特に一人ひとりの個別支援計画に基づき、支援の質の向上が求められているものの、「特定の枠にはめることはできない」とガイドラインでも述べられているように、支援の自由度の高いサービスであることがわかります。

また、厚生労働白書によると、2014年に5,267事業所から、2020年には15,224事業所と実に3倍に事業所数が増加しています(厚生労働省、2020)。放課後等デイサービスの社会的認知度が高くなっていることがわかると思います。

放課後等デイサービスのニーズ調査の結果から

2021年に、林原は富山大学の修士論文で「特別支援学校以外(通常学校)に通学している、小学校1年生〜高校3年生に質問紙調査によるニーズ調査」を実施しています。

ニーズ調査結果の表
ニーズ調査の結果

質問紙調査の結果を集計し、保護者の総合満足度にどの項目が影響を与えているかを検証しました。そうすると、子どもの支援では「学校との情報交換」「学習支援」「子どもの預かり」が影響を与えており、保護者の支援として「事業所での様子を教えてもらえる」「学校と子どもに関して情報交換をしてもらえる」が影響を与えていることがわかりました。

放課後等デイサービスは「障害を持つ子どもの学童保育」とも呼ばれており、小学校1年生から3年生の子どもたちを安全に預かることに主眼が置かれがちなところですが、多様なニーズを持っているサービスであることがわかります。

特別支援学校以外のキャリア支援の課題

一方で、特別支援学校以外の高校のキャリア支援に関して、大きな課題があると感じています。

まずは、特別支援学校を見てみます。

・「キャリア教育を推進するにあたり、長期の職場実習を取り入れるなど職業体験の機会を積極的に設けている」(文部科学省「特別支援学校高等部学習指導要領」、2017)
・「知的障害者にとって、職業生活等への適応性の向上及び就業の促進を図る上で、養護学校における職場実習が特に重要な役割を果たしており、現場実習の履修の機会を十分に確保することにより就労の可能性が高まることが示された」(清水、2021)

特別支援学校では、校内で行われる「フード班」「清掃班」「農業班」など、卒業後の進路をイメージした多様な実習制度、また、高等部の1年生から実施される一般企業での「校外実習」など、本人の適正を先生がアセスメントできる機会、本人が体験を通じて自分を知る機会が多様にあり、キャリア支援の成果は示されています。

農業の写真
画像はイメージです

他方で、特別支援学校以外の様子を見てみると、発達に特性を持っている生徒や不登校経験のある生徒の受け皿となることの多い「通信制高校」で、2018年の進路決定率の調査を見ると、37.1%が「進路未決定かその他」であることがわかります。(文部科学省、2018)

この結果を見ても、特別支援学校以外の学校教育は、伝統的な教科の授業が中心であり、発達障害など特別な教育ニーズを抱える子どもたちにとって、社会に出る前に「実践的なキャリア支援」へのアプローチが必要であることがわかります。

自閉症スペクトラムの就労上の課題

特に、自閉症スペクトラムの生徒は、より一層「体験を通じたキャリア支援」が必要になります。特に知的に遅れがない方は、特別支援教育の対象から外され(または気が付かず)、高校を卒業し、進学してから、就職してから、またはそれらを決める面接等で苦しむ場面を私は多く見てきました。

2017年に梅永は、「ASD者の就労上の課題は,適切なジョブマッチングがなされていないこと,彼らの特性に合った職場の合理的配慮がなされていないこと,゙が報告されている」と述べており、体験を通じたキャリア支援の課題をあげており、2006年に小川等は、「興味や経験が限定されていることから,現実的な職業意識や職業イメージの形成が困難な上, 就職活動で必要となる具体的なスキルに未熟さがあったり,支援者の関与が低いことで職業選択のミスマッチを招いたりする」と自閉症スペクトラムの特性である「想像力の欠如」の課題が、就労上も大きな問題につながることを指摘しています。

発達に特性を持つ高校生にとって、体験を通して興味関心を広げるキャリア支援が必要です。特に伝統的な教科の学習が中心となる特別支援学校以外の学校に在籍されている高校生にとっては特に検討することが必要な課題です。

放課後等デイサービスの役割

特別支援学校以外に在籍する高校生に「体験を通して興味関心を広げるキャリア支援」をする場としては、放課後等デイサービスが最も適切であると考えます。

その理由は、「放課後等デイサービスのサービスの適正」です。先ほど述べたように、放課後等デイサービスは支援内容に自由度がとても高いサービスです。

例えば、平日の放課後や土日を利用して「事業所内での職業体験」を行う機会を作ることができますし、夏休みなどの長期休みを利用して、一般企業での職場体験なども行えると思います。

ヴィストカレッジでは、事業所内で「封筒封入」や「パソコンへの入力作業」、「カフェ店員体験」など事業所内で仕事体験を行い、スタッフがアセスメントを行い、結果を本人と振り返ることで職業の適性や就労上の課題に関して、本人に「気づいてもらう」ことを行なっております。

封入作業の写真
画像はイメージです

また、夏休みなどの長期休みを利用し「お菓子作り」「公園清掃」など、一般企業と連携した職業体験を実施しています。

事業所内外の「就労体験」を通じて、どんな仕事につきたいか、また自分にあっている仕事やあっていない仕事の把握、職業人になる上での自分の課題に気が付くといった、「職業観」を意識することが大切であると考えます。

発達に特性を持つ高校生を支援できる学校以外の公的サービスは「放課後等デイサービス」のみ

現行の公的なサービスの中で、発達に特性を持つ高校生を支援できる学校以外の公的サービスは「放課後等デイサービス」のみです。

特に知的に遅れがないと、学校では特別支援の対象にならないケースが多く、就職や進学など次のステージに進んだ後に困るケース、その前の入り口で困るケースがとても多く見られます。

知的に遅れのない発達に特性を持つ方は、「資格取得」や「用具の使用の仕方」など、特定の専門知識や研修などで得ることのできるハードスキルより、「報告・連絡・相談」や「休憩時間の過ごし方」など、コミュニケーションを伴うソフトスキルに課題があることが知られています。ソフトスキルは実際の就労場面を体験することにより課題が発見することが可能になります。

ヴィストカレッジでは、ソフトスキルを向上するための支援プログラムをご準備しております。ご興味のある方は、是非、ご相談ください。

[引用元・参考文献]
梅永 雄二(2017)「発達障害者の就労上の困難性と具体的対策ーASD者を中心に」『日本労働研究雑誌』 NO.685 p57-68 .
小川 浩、柴田珠里、松尾江奈(2006)「高機能広汎性発達障害者の職業的自立に向けての支援」『LD研究』15巻 p312-318.
清水浩(2021)「進路指導担当教員からみた特別支援学校のキャリア教育に関する現状と課題」『白鴎大学論集』36巻 1号  p87-117.
厚生労働省(2015) 放課後等デイサービスガイドライン
厚生労働省(2020) 厚生労働白書
文部科学省(2017) 特別支援学校高等部学習指導要領
文部科学省(2018) 学校基本調査

執筆者:林原洋二郎
ヴィストカレッジ ディレクター。公認心理士。富山大学大学院人間発達科学部修了(教育士)、金沢大学子どもの心の発達研究センター研究員。富山福祉短期大学非常勤講師。物流企業の営業職、広域通信制高校センター長を経て現職。発達障害の就労支援と発達に特性を持つ子どもの療育(発達を促し、自立して生活できるように援助すること)に従事。『放課後等デイサービスにおけるプログラミングを利用した自己肯定感を育む支援』(日本教育工学会論文誌/2021)など多数執筆。

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