「個別療育」が発達障害のお子さんに有効な理由
ヴィストカレッジディレクターの林原です。
富山市のホームページによると、2022年9月現在で児童発達支援・放課後等デイサービス合わせて67事業所が営業をされているそうです。
サービス形態を見ると「児童発達支援のみ」「放課後等デイサービスのみ」「児童発達支援・放課後等デイサービス多機能型」の3種類あり、「児童発達支援・放課後等デイサービス多機能型」37事業所と最も多く運営されています。
児童発達支援とは「障害のある子どもが身近な地域で適切な支援が受けられるように、従来の障害種別に分かれていた施設体系が一元化され、この際、児童発達支援は、主に未就学の障害のある子どもを対象に発達支援を提供するものとして位置づけられた(厚生労働省、2017)」ものです。
児童発達支援が小学校に就学する前の0歳〜6歳の子どもを対象にするのに対し、放課後等デイサービスは「学校(幼稚園及び大学を除く、以下同じ)に就学している障害児に、授業の終了後又は休業日に、生活能力の向上のために必要な訓練、社会との交流の促進 その他の便宜を供与すること(厚生労働省、2012)」とされています。
放課後等デイサービスの支援の対象は、小学生から高校生までの学校に在籍する子どもたちとなっています。
富山市にある67事業所の支援内容は、各施設のホームページやSNSから鑑みることができます。
放課後等デイサービスの多くの事業所では「学校までの迎え」を行い、保護者が勤務を終了し迎えに来るまで預かる時間の中で、運動や工作、調理といった、必要な療育活動を実施したり、土曜日を利用し平日ではできないイベント(外出活動、親子活動など)を施設毎で工夫し実施している様子が見られます。
上記のような「集団療育」を実施している施設が多い中、ヴィストカレッジでは、児童発達支援・放課後等デイサービスともに個別療育(スタッフ1人に子ども1人)をメインに実施しております。
今回は、なぜヴィストカレッジが「個別療育」にこだわって実施しているのかをご説明します。
個別療育が有効な4つの背景
個別療育が有効と考える理由には、4つの背景があります。
順に説明していきましょう。
① 発達障害の子どもの感覚的な背景
ヴィストカレッジを利用している未就学児から、小学校低学年のお子さんは、個別療育を中心に支援を組み立てています。中には個別療育のみ実施をしているお子さんもいらっしゃいます。
理由は、発達障害をお持ちのお子さんや感覚に課題があるお子さんの場合、集団療育だと支援に集中できない、または支援に至らないケースがあるためです。
事例を通してご説明します。
Aさんは小学校1年生からヴィストカレッジを利用しました。Aさんの課題は『援助要請を口頭で行えること』『得意なことを増やすこと(空間認知力が高く、プログラミングなどを希望)』でした。
ワークの内容としては、1日のスケジュールをスタッフと一緒に決めてワークを順番通りに実施すること、本人が得意な『スクラッチ』を学ぶことでした。
ただ、Aさんは衝動性が強く、興味あるものに触りたくなる衝動を抑えられない側面がありました。
ヴィストカレッジでは『Aさんシフト』と呼ばれるものがあり、Aさんが来所される時間帯には、待合室のポット、部屋の中のゴミ箱、シュレッダーなどを、Aさんが見えないように隠します。
もし環境的に『Aさんシフト』を実施せずワークを実施しようとすると「ポットを触っちゃダメ」「ゴミ箱を蹴っちゃダメ」など、ネガティブな声かけや静止が多くなり、本来行うべきAさんの目標に沿った支援ができなくなります。
Aさんに限らず、感覚過敏や衝動性があるASD(自閉症スペクトラム)やADHD(注意欠如多動性障害)をお持ちの方には、支援目標に沿った支援を行うための環境調整が重要です。個別療育では、その人の特性にあった環境を準備することができます。
また、音の弁別(たくさんの人が喋っている中から特定の音だけを選ぶ能力)や、選択制注意(自分が見えている映像の中から特定の映像を選んで注意を向ける能力)が苦手な子が多いため、スタッフと子どもがマンツーマンになることで「誰の話を聞けばいいか?」「今、何をするべきなのか?」が明確になり、子どもは指示された内容に集中することができます。
② 一人ひとりのアセスメントが支援には最重要
①で記載したような「音の弁別」や「選択制注意」「感覚過敏」などは、年齢とともに必ず向上します。
しかし、適切な成長をするためには、適切な支援が必要です。子どもの発達は一人ひとりスピードが異なります。特に発達障害を持つ子どもは、アンバランスな発達が一見すると「定型発達」のお子さんと同じように見えるため、アンバランスさが見過ごされ、ネガティブな体験を繰り返してしまうことも少なくありません。
Bさんを事例に考えてみます。Bさんは、小学校3年生、WISCⅣの検査結果を持たれています。
結果は「言語理解:76、知覚推移:71、ワークングメモリー:52、処理速度:78」というもので、この結果を見ると、ワーキングメモリー(情報を一時的に保存しておく能力)が他の数値と比べて低いことがわかります。
Bさんは、学校では特別支援級(自閉症情緒級)に通っています。先生の集団指示を聞いて実行するのが苦手で、授業中にやるべきことがわからず隣のお子さんにちょっかいを出し、先生から怒られること、友達と喧嘩をすることも頻繁だそうです。
Bさんの個別療育を実施してわかったのは、ホワイトボードに書いてスケジュールを提示するとBさんは課題の切り替えがスムーズですが、口頭だけの指示だと、次にやるべき指示内容を忘れてしまっていることが多いということでした。
「①をやったら、②をやります」という指示を口頭で指導員が行った時、①をやっている間に②を忘れてしまうのです。WISCⅣの検査結果で「ワークングメモリー」の低さが起因していることが考えられます。
Bさんの支援では、個別で「ホワイトボードに指示内容を記載し、忘れてしまっても見返すことができる環境を準備」することで、集団療育においてもワーキングメモリーの低さを補填することができます。
これは、Bさん以外の他のお子さんにも当てはまることで、科学的な合理的配慮になりますので、学校や家庭での支援の汎化に図る(学校や家庭でも実践していただく)ことが可能です。
③ 自己肯定感の向上も重要な狙い
学校生活などの「集団活動」の中で、発達のアンバランスさから適切な支援がなされず「なんで他のクラスメイトみたいにできないの?」など、周囲と比較されると「自分は劣った人間」と思ってしまい、自己肯定感が低下します。
特に、小学校3年生あたりから、思春期に入ると「自分と周囲の人間が違う存在」ということを意識してくるので、周囲との比較は決定的に自己肯定感を下げます。
放課後等デイサービスなどの施設で、集団活動の中で工作や運動を行うことが多いと思われますが、ASDで不器用な子どもにとって工作は苦手なもの、ASDでボディーイメージや協調運動が苦手なお子さんにとっては運動は種目によっては苦手なものになる可能性があります。
特に、日本の特別支援教育は「苦手な事へのボトムアップのアプローチ」を考えることが多いと思います。発達障害は他の子どもより劣っているわけではなく、発達がアンバランスなため、得意なことと苦手なことの差が大きいのです。
学校では、集団で行動できること、学力が上がることなど、固定された価値観で子どもの能力が図られてしまうことが少なくありません。
今はVUCAの時代と言われ、時代の価値観が急激に変化しています。
2014年の英オックスフォード大学の研究によると、20年後までに今ある仕事の約50%は人工知能ないしは機械によってなくなってしまうと言われています。10年前にYouTuberという仕事でご飯が食べていけるなど、誰が想像したでしょうか?
個別療育では、一人ひとりのお子さんと向き合うことができ、何が得意で何が苦手かを他人と比較されることなく本人が体験を通して理解することができます。
得意なことを見つけそれを伸ばしていくには、個別療育は特に効果的な方法です。
④ 思春期(小学校高学年〜中高生)以降は、マンツーマンで話を聞くことが重要
小学校高学年以降になると、学校や家庭の人間関係の悩み、学習の悩みが増えてきます。
『コミュニケーション等の課題による人間関係の悩み』や『学習の悩み』『進路の悩み』など、特に発達障害を持つお子さん特有の悩みも出てきます。
最近増えてきたのは、SNSに関する相談です。
中学生から子どもにスマホを持たせるようにするご家庭が増えていますが、LINEなどで「友達からブロックされて困った」という相談がありました。
子ども本人によく聞いてみると、友達にLINEをしても返信がないため1分の間に十数回同じ質問を繰り返し送信したそうです。その子は「返信がないから繰り返した」と言っていましたが、受け取った方からすると恐怖を感じる行為かもしれません。
発達障害の特性である『社会性の学習の困難さ』や『相手の気持ちを考えるのが苦手』なことが背景として考えられます。
また、小学校の高学年から学校での学習は難しくなります。
特に、読み・書きの苦手な子は、国語で言い回しが難しくなったり、覚える漢字が増えたり、国語以外の教科でも文章問題が苦手になったりします。
そういった悩みに関して、子どもが困ったときの「相談先」が確保されていることが大切です。ご家庭で保護者や学校の先生が相談先になっていることもありますが、相談先が複数あると子どもは相談内容によって相談先を変えることができ、子どもの安心へと繋がります。
また、特にADHDやASDで「自分の興味関心を他人に聞いてもらいたい」と言うお子さんもいます。『興味・関心が限定されているお子さん』にとっては、学校の友達には聞いてもらえないことも、個別療育ではしっかり聞くことができます。ヒアリングした内容は、その子どもの進路選択等で有効活用することが可能です。
個別療育が果たす役割とは?
個別療育では2つのことを成し遂げることができます。
1つ目は子ども一人ひとりの特性を丁寧にアセスメントし、本人の得意な能力を伸ばし、学校や家庭内で認められない本人の価値観をしっかり認めることで、子どもの自己肯定感をあげることです。
2つ目は、集団生活で苦手と思われる部分には、適切な環境設定の方法をプランニングしてあげることで、家庭や学校生活での困り感を減らすことです。
2021年10月、文部科学省が「2020年度に不登校と認定された小・中学生は19万人を超え、過去最多を記録した」と発表がありました。
富山県でも2020年は県内の国公私立学校で不登校だった児童生徒は、1,865人と5年連続で過去最高を更新しています。
富山県の小中学校の学級数は、小学校で2,200学級、中学校で921学級の合わせて3,121学級であることから、3クラスに2人の不登校の児童生徒がいる計算になります。
また、不登校の定義が「年間30日以上の欠席(文部科学省)」であることから、欠席にカウントされない「相談室登校」「夕方登校」などの児童生徒を含めると、私の肌感覚としては、1クラスに1人くらいの不登校児童生徒がいると思われます。
2019年10月に文部科学省は「不登校児童生徒の支援のあり方について(通知)」において「児童生徒の才能や能力に応じてそれぞれの可能性を伸ばせるよう、本人の希望を尊重した上で、場合によっては教育支援センターや不登校特例校・ICTを活用した学習支援・フリースクール・中学校夜間学級(以下「夜間中学」という)での受入れなど、様々な関係機関等を活用し社会的自立への支援を行うこと、その際フリースクールなどの民間施設やNPO等と積極的に連携し、相互に協力・補完することの意義は大きい」と述べています。
不登校の児童生徒及び、学校には登校しているが学校生活に苦しさを感じている児童生徒が多くなる現状で、放課後等デイサービスの果たすべき役割は今後さらに大きくなると考えられます。
個別療育は、発達障害など発達に特性を持つ子どもの才能を伸ばし、将来を開く可能性のあるサービスです。
不登校など学校で自分の価値観を見出せなかった方には特に利用していただきたいサービスです。
[引用元・参考文献]
・厚生労働省(2017)「児童発達支援ガイドライン」
・厚生労働省(2015)「放課後等デイサービスガイドライン」
・富山市ホームページ「富山市内の指定障害福祉サービス事業所一覧」
https://www.city.toyama.toyama.jp/fukushihokenbu/shogaifukushika/jigyousyojouhou.html
・文部科学省(2019)「不登校児童生徒の支援のあり方について(通知)」
・北日本新聞社(2021年10月14日付)「児童生徒、不登校過去最多 県内20年度コロナが影響」https://webun.jp/item/7797659
執筆者:林原洋二郎
ヴィストカレッジ ディレクター。公認心理士。富山大学大学院人間発達科学部修了(教育士)、金沢大学子どもの心の発達研究センター研究員。富山福祉短期大学非常勤講師。物流企業の営業職、広域通信制高校センター長を経て現職。発達障害の就労支援と発達に特性を持つ子どもの療育(発達を促し、自立して生活できるように援助すること)に従事。『放課後等デイサービスにおけるプログラミングを利用した自己肯定感を育む支援』(日本教育工学会論文誌/2021)など多数執筆。