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【実例紹介】進路が決まらない発達障害・不登校の高校3年生への支援方法

解説 2022.09.05

ヴィストカレッジディレクターの林原です。

高校3年生になり、卒業後の進路の問題で頭を悩ませている保護者の方、学校の先生、支援者の方は多いのではないのでしょうか?

令和4年4月から「民法の一部を改正する法律」によって、成人年齢が20歳から18歳に引き下げられました。高校を卒業すると法律上は「成人」となり、選挙権を取得でき、社会に対しての責任が増えることになります。法律上は大人になる年齢が下がったわけです。

しかし、「成人」=「社会人」とは異なります。

社会人とは「実社会で働いている人。学生・生徒などに対していう」(デジタル大辞泉)と記載があるように、「企業等で働いている人」を一般的には指します。大人になると、「早く社会に出ること」「1人で生活すること」が期待されますが、現実の世界では高校卒業後すぐに社会人になる卒業生は多くはありません。

学校基本調査(令和3年)を見ると、富山県の高校を卒業した生徒は8,720人に対し、就職をした生徒は1,751名の20%に対し、大学や専門学校への進学者は6,574人の74%と、就職をした生徒の4倍近くが進学していることがわかります。

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18歳で「いきなり就職」より、専門学校や大学でさらに学び、資格や検定を取ることで「手に職」をつけたい子どもや保護者が多いことがわかります。

そして、「進学か?就職か?それ以外か?」といった悩みは、発達障害をお持ち、または不登校経験があり通信制や定時制で学んでいる方はさらに深刻なのではと感じています。

ヴィストカレッジでは、保護者会を年間4回〜6回程度実施しています。その中で高校生の保護者の相談事項として最も多いのが、「高校卒業後の進路」です。

お子さん自身は「自分に何が向いているのかわからない」「勉強はしたくないけど、就職もしたくない」など話しており、子どもと進路の話が前に進まないこともよく耳にします。

また、「YouTuberになりたい」「FXで起業する」など、現実と希望が離れているため、子どもと保護者の話が平行線を辿ることも少なくありません。

今日は、進路が決まらない発達障害・不登校がある高校3年生の支援に関してお話しをいたします。

なぜ、進路が決まらないのか?

① 発達障害の認知的特性

多くの学校での進路指導では、教科書の中の図や言葉、または動画を見て進路選択を考える授業が多いと思います。

発達障害の生徒(特に自閉症スペクトラム)は、目で見ていないこと、体験していないことをイメージすることが苦手なお子さん、または、「メタ認知」と言われる自分のことを客観的に見る力が弱いお子さんが多いです。

支援学校では授業の中で、「清掃班」「フードデザイン班」「農業班」など学校内での作業体験と、実際に企業内で行う企業実習を行います。実際に仕事を経験をすることで、「やったことなかったけど、やってみたら面白かった」とか「好きだと思っていたけど苦手な仕事だと思った」など、自分の見えない可能性に気がつき、自分の得意/不得意を理解することへと繋げることができます。

清水(2021)は「知的障害者にとって、職業生活等への適応性の向上及び就業の促進を図る上で、養護学校における職場実習が特に重要な役割を果たしており、現場実習の履修の機会を十分に確保することにより就労の可能性が高まることが示された」と述べるなど、特別支援学校の就業体験による成果は様々な研究で成果を上げています。

では、特別支援学校以外の高校ではどうでしょうか?

校内での「仕事体験」や、インターンシップ等の一般企業等での「職場体験」などは、普通科の高校ではほとんど行われていません(工業・商業高校など専科を持つ高校では実施されている例もあるようです)。

そのため、発達障害など認知的特性を持つお子さんには、高校卒業前に、学校以外の施設やご家庭で、より多くの仕事の体験を通して学習する必要があります。

仕事体験をすることで、将来的なジョブマッチングの成果も見られます。

小川ら(2006)は「興味や経験が限定されていることから、現実的な職業意識や職業イメージの形成が困難な上、 就職活動で必要となる具体的なスキルに未熟さがあったり、支援者の関与低いことで職業選択のミスマッチを招いたりする」と述べており、仕事体験の重要性を述べています。

放課後等デイサービスのヴィストカレッジでは、中高生向けに平日は事業所内での「仕事体験」、長期休み等では一般企業と連携した「職場体験」を実施しております。ご家庭だけで取り組むのはご家庭の負担がとても大きくなる心配があります。できれば、こういった取り組みをされている事業所を活用されることをお勧めします。

ヴィストカレッジでの職場体験の様子

② 社会性の欠如

認知的特性の影響で「社会性の欠如」が見られるお子さんがいます。

「社会性の欠如」で見られる課題として「現実的な職業選択と子ども希望の乖離」が挙げられます。

Aさんの例をご紹介しましょう。Aさんは高校卒業後に「YouTuberになりたい」と話していました。

「どんなYouTuberになりたいのですか?」と聞いたところ、「麻雀とゲームが好きなので、それを動画に撮って配信して生活していきたい。他の仕事の選択肢は考えていない」とのことでした。

現在は、副業が認められている会社も多いですし、動画を作成したり、YouTubeに投稿することで生きがいにもなります。

ただ、配信をするだけではお金は稼げません。それを見てくれる人の存在が必要で、コンテンツの選定、編集方法、配信の方法などを勉強する必要があります。

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こういうケースでは、本人へのアプローチ方法として、YouTuberになることを拒否するのは得策ではありません。

本人は理由がわからないまま拒否されると、それが負の体験として強く残ってしまうため、将来、何かうまく行かない時に「親がYouTuberになるのを拒否したせいだ」と他責にしてしまう傾向があります。

ポイントは、まずは本人の希望に寄り添うことです。

本人が体験して「課題」「必要なスキル」などを認識する必要があるため、実際にYouTuberを期間や方法を決めてやってみるのはいかがでしょうか?

実際にAさんは、私がサポートしながら動画配信を始めました。1ヶ月経ち、閲覧数が最大で50人と壁に当たっています。(本人は開始したら1万人はすぐにいくと考えていました)

何が問題なのかを一緒に解決しようとしていますが、「自分にはYouTuberで食べていくのは難しい」とも思ったようで、就労移行支援で仕事のトレーニングも開始しました。現在のAさんの夢は「収入全体の8割はYouTuber、2割を他の仕事で稼ぎたい」と変化してきました。本人に寄り添い「現実の世界」と「本人の世界」を繋ぐ支援が必要なケースだと思います。

さらにここで大切なのは、本人の世界を否定しないことです。

オックスフォード大学の調査結果では、今後10〜20年のうちに約半数の仕事がAIの影響で消える可能性があるそうです。10年前にYouTuberが人気の仕事になるとは誰が想像できたでしょうか?本人の可能性を信じ、本人と一緒に「世の中を変えていく」くらいの気持ちが時には必要になると思います。

③ 高校までの「失敗」の学習

高校3年生になって進路の決まらない方の特徴に、適切な支援につながる時期が遅かった、または適切な支援に繋がっていないことが挙げられます。

本来は個別の支援(通級指導教室や特別支援学級や放課後等デイサービス等)が必要であったにもかかわらず、多くの子どもたちの中に埋もれてしまい、先生や周囲の友達の期待に応えられず(一斉の指示が聞けない、他のお子さんとのコミュニケーションがうまくとれない、など)、先生の叱責や友達との喧嘩につながるケースも少なくないと思います。

そういった失敗が重なって行くことで、「自分は何をやってもダメだ」など、自己効力感の低さに繋がり、新しい環境に挑戦する力を失ってしまいます。

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こうしたケースでは、成功体験(自分ができたと思える体験)をスモールステップで積み重ねていく必要があります。でも、それは仕事につながらない活動かもしれません。

例えば、「学校になかなか通うことが難しいお子さん」は学校外で自分が活動できそうな場につながることから始める、「勉強がいやだけど仕事もしたくないお子さん」は、今ある地域資源の選択肢の中から興味のあることを中心に、つながることから考える(ゲームが好きならゲームを作る専門学校や、食べ物が好きなら食べ物を作る短大など)といったことです。

大切なのは、興味のある活動で、地域資源と繋がり続けることです。

子どもは必ず成長します。今は就職をイメージすることが難しくても、本人が地域資源と繋がり続けることが大切です。

そのためにも、興味関心の幅の狭い傾向が多い自閉症スペクトラムのお子さんには、ゲームやアニメなど就職に関係がないと思われても、その分野を生かした得意を深めることが必要です。

「支援付きの試行錯誤」が最も重要

以上のように、高校3年生になり進路が決まらないのは、自閉症スペクトラムの傾向のあるお子さんは特に「体験の不足」が影響しています。

信州大学小児科医の本田秀夫先生は「支援付きの試行錯誤」という言葉を使われています。思春期以降は支援を受けながら、本人のTRY AND ERROR を見守り、必要な時に支援を発動できるよう準備しておくという意味です。

大人は失敗するかもしれないと思いつつも本人の気持ちを大切に、まず挑戦してもらう、もしもの時の道を準備しておく、あとは勇気を持って子どもを送り出す勇気が必要になると思います。

私が担当したBさんの事例をご紹介します。Bさんは「高校を卒業したら、電車が好きなので車掌になりたい」と希望していました。車掌になるには専門学校に行って特別な資格を取る必要がありました。

Bさんは学習障害(読字障害)があり、「専門学校に行っても授業についていけない」という保護者の思いと、「車掌になりたい」という本人の思いとの間で進路が決まりませんでした。

支援チームは検討した結果、「専門学校には進学、退学した場合に働く先を準備できるように療育手帳の取得」を計画し、高校3年生の秋に療育手帳を取得しました。

その後、専門学校には進学しましたが、1年生で単位が取れず退学しましたが、電車が好きだったBさんは電車を清掃する仕事につくことができました。

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「夜勤などあり仕事はきついこともありますが、毎日いろんな電車を見ることができて楽しい」と充実している日々を送っているようです。

高校3年生で進路が決まらない場合は、仕事につながるかどうかの有無は置いておき、ご本人の興味関心を元に次につながる場所を検討しましょう。

その子なりの成長のスピードがあります。コミュニケーション力、社会性は場に繋がっていることで必ず成長します。焦ることなく前に進んでいただきたいと思います。

[引用元・参考文献]
・小川 浩、柴田珠里、松尾江奈(2006)「高機能広汎性発達障害者の職業的自立に向けての支援」『LD研究』15巻 p312-318.
・清水浩(2021)「進路指導担当教員からみた特別支援学校のキャリア教育に関する現状と課題」『白鴎大学論集』36巻 1号  p87-117.

執筆者:林原洋二郎
ヴィストカレッジ ディレクター。公認心理士。富山大学大学院人間発達科学部修了(教育士)、金沢大学子どもの心の発達研究センター研究員。富山福祉短期大学非常勤講師。物流企業の営業職、広域通信制高校センター長を経て現職。発達障害の就労支援と発達に特性を持つ子どもの療育(発達を促し、自立して生活できるように援助すること)に従事。『放課後等デイサービスにおけるプログラミングを利用した自己肯定感を育む支援』(日本教育工学会論文誌/2021)など多数執筆。

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