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発達に特性を持つ子どもが身につけておくべき「ソフトスキル」とは?

解説 2022.06.30

ヴィストカレッジディレクターの林原です。

いきなりですが、「ハードスキル」「ソフトスキル」という言葉をご存知でしょうか?

私が初めてこの言葉を知ったのは、2016年の「第24回職業リハビリテーション研究・実践発表会」で早稲田大学教授の梅永先生の講演をお聞きした時です。

「ハードスキル」とは「教えられる能力」「容易く数量化できる能力」のことで、本で勉強したり学校で学ぶことができ、職場での作業を習得するようなスキル(例えば、外国語の習得、資格の習得、タイピングのスピード、機械操作など)を指します。
「ソフトスキル」は「数値化するのが困難なスキル」「人に関わるスキル」のことで、学校場面ではSST(ソーシャルスキルトレーニング)などで習得を目指されるスキル(例えば、遅刻をしない、身だしなみを整える、適切に昼休みを過ごすなど)を指します。

とりわけ、職場で問題になる可能性が高いのは、同僚上司に対する挨拶、ミスをした際の報告、トイレに行く際に許可を得るなど、コミュニケーションを含む対人場面です。(梅永、2018)

発達に特性のある子ども、特に自閉症スペクトラム障害の傾向のあるお子さんには、ハードスキルとソフトスキル、両面へのアプローチが必要です。ですが、ハードスキルは学校で学習する機会が多い一方で、ソフトスキルを学習する機会は多くはありません。

なぜソフトスキルは大切なのか?今回は、ソフトスキルについて解説します。

「ソフトスキル」の未熟が社会に出る際の大きな障壁に!

下の表は「精神障害者の離職の理由(個人的理由)」です(厚生労働省、2013)。

厚生労働省「障害者雇用実態調査」(2013年度)より

2004年に発達障害者支援法が施行され、発達障害を持ち就労などで支援が必要と医師等が判断した際には「精神障害者保健福祉手帳」が発行されることが多いため、この表に中には一定数、発達障害をお持ち、または、発達障害の二次障害として精神疾患を患った方もいらっしゃることが推測されます。

私自身も、ヴィストキャリア富山駅前で就労支援員・サービス管理責任者として2年間勤務しましたが、20代〜30代前半で、学生時代までは支援を受けず、社会人になってから支援を受けることになった方が多かったのを覚えています。

この表で最も多いのは、「職場の雰囲気・人間関係 33.8%」です。

つまり、仕事そのものに関わる技能的な能力以上に、コミュニケーションを含む対人場面が課題となり離職していくことが多いということです。

私自身、就労支援をしていた際に、利用者さんから相談されることが多かったのは「職場の雰囲気」とのマッチングでした。上司や同僚との人間関係、上司に質問や相談があった時にどう相談するか、昼休みなどの休憩時間に同僚はどのように過ごしているか、などでした。

私は職場見学、職場実習など、実際に勤務の場面を体験することが重要だと思います。「求人票の文字だけで見る社風」と、「実際に体験する社風」は、感じ方は人によって違うので、双方が全く一致することはないと思います。

その中で、実際に働く人にとって働きやすい環境支援(トップダウン支援)と、上司や同僚へのコミュニケーションを含む対人関係の支援(ボトムアップ支援)の双方が必要です。特に今後の就労支援では「ソフトスキル」への支援のさらなる充実が求められます。

学校で「ソフトスキル」は学べるか?

それでは、学校生活にこれを置き換えてみます。

学校の伝統的な教科学習では、ハードスキルを学ぶための学習はとても充実しています。私は3人子どもがいます。現在40代後半である私の学生時代と比べると、テストの頻度、学校で取得可能な資格の数、宿題の量はとても多く、定量的に子どもの知識面、経験面を図ることができるようになっていると思います。

近年では、「スクールGIGA構想」がコロナ禍の影響で急がれることになり、今年度(2022年度)中に、全ての公立小中学校に、1人1台ICTの端末が支給されることになりました。私が大学時代は、パソコンではなくワープロを使っていたことを覚えていますが、とても世の中が便利になったと実感しています。

一方で、ソフトスキルに関しては学ぶ機会が少ないように思います。

私が就労支援に携わっていた際にAさん(30代、女性)に携わっていました。

Aさんは、自閉症スペクトラム、軽度知的障害の診断で療育手帳をお持ちでした。Aさんは、パソコンが得意で事業所内で実施していた資格検定には積極的に参加され、数多くのパソコンの資格を取得していました。

Aさんの課題は「自分の興味があること」を話し続けてしまうこと、「話をするタイミング」がわからないこと、「人の気持ちを考慮することなく思ったことを話してしまう」ことでした。

Aさんが最も課題となる時間は「昼休み」です。

仕事中は作業に集中することができるため、私語をすることはありませんでしたが、昼休みは、同僚に対して自分の興味があることをずっと話し続けてしまい、周囲の同僚から距離を置かれるようになってしまいました。

Aさんの支援では、「昼休みに集中して取り組むことを見つける」を目標に入れ、「小説を読むこと」、「スマートフォンでゲームをすること」を事業所での過ごし方の計画に入れて取り組んだところ、昼休みも話をすることなく過ごすことができるようになりました。

画像はイメージです

しかし、元々、お話をすることが好きな方なので、周囲の人にストレスなく話をする方法を身につけることができれば、Aさんはもっと楽しく過ごせたのかもしれない、と思います。

Aさんは、小学校、中学校と地域の学校の特別支援級に在籍していたそうです。当時の学校での様子を知る手段はありませんでした。しかし、Aさんのように、ソフトスキルに課題がある方は、学校に在籍している時から、「話をするときは相手に確認をしてから話し出す」や「話をしていいこと、話をしてはいけないこと」を、視覚化、構造化された本人にわかりやすい環境の中でトレーニングを受け、早い段階から社会で必要となるソフトスキルを身につける必要があると思います。

「ソフトスキル」を身につけるには?

「コミュニケーションの支援」と聞くと、SST(ソーシャルスキルトレーニング)を思いつく方も多いと思います。

SSTは、コミュニケーション上で困難と想定される場面を切り取り、適切なコミュニケーションをモデリングにより学習し、子どもがロールプレイを行い定着させる方法です。

ヴィストカレッジでも小学生を中心に実施しております。ただ、SSTは「一定の場面しかきりとれない」「自閉症スペクトラムのお子さんは汎化がしにくい」「ワーキングメモリーが低いお子さんの場合、課題感を感じていない場合がある」と限界があります。

ソフトスキルを身につけるためには、学校や家庭、事業所での活動全てにおいて、「ソフトスキルを身につける機会」と捉え、課題となる場面をアセスメントし、その場面ごとに適切に支援していく必要があると考えます。

[引用元・参考文献]

梅永雄二(2018):「心理学ワールド、日本心理学会」81号
厚生労働省(2013):「障害者雇用実態調査」
https://www.mhlw.go.jp/stf/wp/hakusyo/kousei/18/backdata/01-01-01-38.html

執筆者:林原洋二郎
ヴィストカレッジ ディレクター。公認心理士。富山大学大学院人間発達科学部修了(教育士)、金沢大学子どもの心の発達研究センター研究員。富山福祉短期大学非常勤講師。物流企業の営業職、広域通信制高校センター長を経て現職。発達障害の就労支援と発達に特性を持つ子どもの療育(発達を促し、自立して生活できるように援助すること)に従事。『放課後等デイサービスにおけるプログラミングを利用した自己肯定感を育む支援』(日本教育工学会論文誌/2021)など多数執筆。

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