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発達に特性のある子どもの「学習スタイル」に配慮した『富山県放課後等デイサービスゆるゆる運動会』

障害理解 2022.06.25

ヴィストカレッジディレクターの林原です。

令和4年6月11日(土)に「第4回富山県放課後等デイサービスゆるゆる大運動会」を実施しました。4回目になる今回は、新型コロナ感染症予防の観点から、現地会場とオンライン会場(各事業所など)を繋ぎ、14事業所、230名の方にご参加いただきました。

ゆるゆる運動会は、「発達に特性があり、一般の学校の運動会を楽しめない子どもが、目一杯楽しめる運動会で楽しんでもらいたい」という思いからスタートしました。

今回は、ゆるゆる運動会が子どもたちの発達の特性にどのように配慮しているのかをご紹介します。発達に特性のある子どもの「学習スタイル」への理解にお役立ていただければと思います。

発達に特性のある子どもが「運動会」への参加が苦手になる要因

発達に特性のある子どもが、学校で行われる伝統的な「運動会」への参加が苦手になる要因としては下記のようなものが考えられます。

1. 「待つ」ことが苦手
2. 口頭だけの指示が苦手(ルールがわからない)
3. 他者との勝ち負けが明確にある(ゴールは必要)
4. こだわりが強い
5. 大きな音が予告なく出る場面が多い

このような背景にどうアプローチしているかをご説明します。

1.「待つ」ことが苦手 

学校で行われる伝統的な運動会では、「待つ」という場面がとても多くあります。

ADHDなどの衝動的に行動してしまう子どもや、ASDなどの実行機能(計画的に行動するための脳の機能)の弱い子どもにとって「待つ」ことは苦痛です。

そのため、ゆるゆる運動会では、「運動会種目ゾーン」「フリープログラムゾーン」を分けて運営をしています。

運動会種目では、タイムスケジュールに沿って「玉入れ」「綱引き」などの伝統的な運動会種目が行われていますが、運動会種目を待っている間に待ち切れない子どもは、「フリープログラムゾーン」に行って別の運動をすることをOKにしています。

こうすることで、子どもに変化がみられました。「待つ」というストレスがなくなることで、やりたい活動が明確になり、「順番をまつ」や「ルールを守る」が苦手な子どもができるようになります

北日本放送でも「ゆるゆる運動会」について紹介いただきました

2.口頭だけの指示が苦手

発達に特性を持つ子どもは、ワークングメモリー(口頭で聞いた情報などを脳に一時的に保管しておく機能)が低いお子さんが多くみられます。

また、小学生のお子さんで、言語理解力に差がある場合があります(特に低学年では差が大きいと思われます)。

伝統的な運動会では、口頭指示だけで行われる場面が多くみられます。

こうしたシーンでは、視覚的指示を全ての種目において行うことが有効です。

ゆるゆる運動会では、ルール説明をする動画を作成し、最初に子どもたちに見てもらい、ルールを把握したかどうかを確認しながら行います。子どもが全力で活動を行うには、自分が何をするべきかを把握する必要があります。

ルール説明動画の例「サイコロふってハイタッチ」の動画の一部

3.他者との勝ち負けが明確にある(スタートとゴールは明確に必要)

「一番病」という言葉をご存知でしょうか?

正式な病気の名前ではありませんが、「勝つこと」「一番になること」に強い執着があることを言うようです。発達に特性のあるお子さんは、この「一番病」が発生してしまう場面が多いように思います。「抽象的な概念が苦手」なことが背景として考えられます。

運動自体はすれば「楽しいもの」と感じるはずです。ただ、勝ち負けが運動の要素の中に入ると、「勝つこと」が目的になってしまいます。それは、「勝つ」と言うことが明確に見えやすいからです。逆に「楽しむ」と言うことは目で見えにくく、「抽象的な概念が苦手」な子どもたちは「楽しむ」ことよりわかりやすい「勝つ」ことを好む傾向にあります。

ゆるゆる運動会では、勝ち負けが無い競技を選択し、勝ち負けがあっても、それにこだわることがないようにルールを作っています。

例えば、綱引きです。綱引きは、右と左に別れて引っ張り合い、勝ち負けを競う競技です。ゆるゆる運動会では、3回戦行い、1・2回戦は子ども同士で行い、3回戦目は大人対子どもで行います。そして、3回戦目は大人が負けます(演技力が必要)。

アメリカの心理学者のカーネマンは「あらゆる経験の快楽は、ほぼ完全にピーク時と終了時の快苦の度合いで決まる」と『ピークエンドの法則』を提唱しました。

子どもたちは、1・2回戦が悔しくても、3回戦で大人に勝つことで満足感を得ることができます。また、大人に勝った時には同じチームで戦った仲間と一体感を持つことができるかもしれません。

ただ、勝ち負けはなくても、スタートとゴールは明確に必要です。「視覚的に優位」な学習スタイルを持つ発達に特性を持つお子さんは、いつどこから始まって、いつどこで終わる、が明確になっていると安心して競技が楽しむことができます。

4.こだわりが強い

発達に特性を持つお子さんの学習スタイルの一つに「興味関心の偏り」があります。

参加しているお子さんを見ていると、たくさんの競技に色々参加するお子さんもいれば、一つの競技を繰り返ししたがるお子さんもいます。特に、一つの競技を繰り返し行うことを好むお子さんに関しては、次の競技に移ることに抵抗を示す可能性があります。(時にはパニックになる場合もあります)

ゆるゆる運動会では、事業所のスタッフ、大学生などのボランティアスタッフが協力することで、好きな時に好きな活動を好きなだけできるような環境を作っています。

ゆるゆる運動会は周りから見ると「好きなことだけやっている」と思われるかもしれませんが、お子さん自身は「一生懸命運動している」のです。本人の意思を最優先に活動に取り組んでいます。

5.大きな音が予告なく出る場面が多い

最近は、学校の運動会でも、徒競走の際に大きな音が出る「火薬のピストル」は使用せずに、「電子ピストル」を使用していると思います。

発達に特性のあるお子さんで「聴覚過敏」があるお子さんは一定数います。そのため、子どもたちが驚くと思われる音は控えています。

また、大きな音が出る場合は、「予告」を行います。予告を行うことで、子ども本人、または事業所のスタッフが音を避ける行動をすることができ、本人たちが不快に感じなくなります。

「環境」は子どもたちの活動に大きな影響を与えます

発達障害など、発達に特性のある子どもたちは「環境」次第で活動が大きく変わる場合があります。

今回の運動会が終わった直後に保護者様よりお電話をいただきました。

「在籍している保育園では、集団活動に参加しない、順番を待つなどルールを守れないと保育園の先生から言われています。今回の運動会では、自分から集団活動に参加し、順番を待つこともできていました。開催していただきありがとうございました」というものでした。

子ども本人の学習スタイルに合わせ、環境を調整し、本人たちがやりたいことにアプローチすると、子どものできることが増えてくると感じた瞬間でした。

「ゆるゆる運動会」は毎年実施しています。子どもたちの笑顔をさらに増やしていくため、参加していただける方を今後も増やしていきたいと考えています。


執筆者:林原洋二郎
ヴィストカレッジ ディレクター。公認心理士。富山大学大学院人間発達科学部修了(教育士)、金沢大学子どもの心の発達研究センター研究員。富山福祉短期大学非常勤講師。物流企業の営業職、広域通信制高校センター長を経て現職。発達障害の就労支援と発達に特性を持つ子どもの療育(発達を促し、自立して生活できるように援助すること)に従事。『放課後等デイサービスにおけるプログラミングを利用した自己肯定感を育む支援』(日本教育工学会論文誌/2021)など多数執筆。

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