学校での集団活動が苦手な子どもと楽しく活動を行うコツ②~活動を構造化する~
ヴィストカレッジディレクターの林原です。
前回は、自閉症スペクトラム障害(ASD)のお子さんが、集団活動を苦手な背景についてご紹介しました。復習しましょう。
【自閉症スペクトラム障害(ASD)のお子さんが集団活動を苦手とする背景】
① 音の弁別が苦手
② 感覚過敏等の問題がある
③ ワーキングメモリーが弱い
④ 言語理解の問題がある
⑤ 「心の理論」の獲得に課題がある
⑥ 学習スタイルの違い(シングルタスク、シングルフォーカスの傾向が強い)
今回は、療育の現場で実践している、集団活動を楽しく行うコツをお伝えします。
活動を構造化する
ヴィストカレッジでは、未就学児〜高校生まで、発達の段階に合わせた「運動教室」を実施しています。
未就学は動物体操、サーキットトレーニングなど「感覚運動」や「模倣遊び」を中心に、小学生低学年は、鬼ごっこや大縄跳びなど「勝敗及び簡単なルールのある運動」、小学校高学年はドッジボールやサッカーなど「勝敗及びルールや共同して実施することが必要な運動」、中学生以上は、筋トレやランニングなど「社会にでても継続的に実施可能な運動」を実施しています。
参加人数は発達段階によって違いますが、未就学児〜小学生までは1クラス3名程度、中学生・高校生は多いときで10名以上の方に参加をいただいています。
ある1日の運動教室(小学生低学年)のプログラムを例に、自閉症スペクトラム障害(ASD)のお子さんが、活動に集中して楽しく運動を実施するため工夫していることを、「構造化」の観点から説明します。
構造化とは(佐々木正美2002)、TEACCHプログラム(アメリカのノースカロライナ州立大学を基盤になされている自閉症とその家族、関係者を対象にする包括プログラム)の概念で、自閉症スペクトラム障害(ASD)の方の特性を背景に安心して活動ができるように工夫された教育方法です。
ある1日の運動教室プログラムの内容(小学生低学年)
- 1.あいさつ、今日のスケジュールの説明
- 2.準備体操 5分
- 3.チャレンジトレーニング(V字バランス、開眼片足立ち、壁倒立) 10分
- 4.新聞じゃんけん 10分
- 5.しっぽ取り鬼 10分
- 6.あいさつ、今日の感想
活動の構造化
1のあいさつの際に、子ども達が「活動のスケジュール」を理解できるように、スタッフが説明する上で3つの工夫を行います。
(1)「ホワイトボードにスケジュールを子どもたちがわかるように記載」
「視覚優位」「ワーキングメモリーが弱い」「口頭だけでの説明では理解が難しい」といった子どもが多いため、必ず1日の実施内容の流れを説明するときはホワイトボードに、上から順番に記載します。
また、「言語理解」に関して差があるので、その時に参加している子ども全員がわかる形(場合によってはイラストや写真など添付)で説明します。
(2)「スタッフが指示を話すとき子どもは座る」
「シングルタスク」の子どもが多いため指示を聞くときは座ってもらいます。
「立って指示を聞く」は「立つ」と「指示を聞く」の2つを行わなければいけません。また、立っていると気になったものを見つける頻度が高くなり、集中できない可能性が高まります。
(3)「各活動のルールを明確に実施」
例えば、「しっぽとり鬼」を実施する前に
・1ゲームは2分間(ストップウォッチを使用し子どももわかるように表示)
・しっぽをつけるのはスタッフ
・子どもはしっぽを取ったら勝ち
などのルールを明確化し、子どもたちにわかる形で伝えます。
また、終わった後はどちらが勝ったのかを伝え、子どもが喜んで終わることを目指します。大概、最終ゲームはスタッフ対子どもチームで行い、子どもが勝つように工夫をしています。
物理的構造化
(1)「各活動に必要なものだけ出す。それ以外は目の届く場所には置かない」
視覚的優位なお子さんが多いのと、興味関心の偏り、また衝動性が強い子どもは教室の中で目にしたものに興味を奪われてしまう可能性があります。そのため、活動に必要なもの以外はしまっておきます。
例えば、「新聞じゃんけん」の新聞を「準備体操」の時に目に見える場所においてしまうと、準備運動ができず、新聞紙を破って遊ぶことに没頭してしまう、なんてことが起きてしまいます。
ちょっと手間はかかりますが、準備運動の際は、新聞紙はスタッフルームに保管しておくようにしています。
(2)「活動の部屋を限定する」
ヴィストカレッジでは、その日に運動ができる部屋は決まっています。子どもたちが分かりやすいように部屋ごとに番号がふってあります。
「今日の運動は2番の部屋」と分かりやすく表示しておくと、その部屋の中だけで集中して活動がしやすくなります。
時間の構造化
(1)「1つ1つの活動を定量化する」
各プログラムの時間帯を、最初の挨拶の後に子どもたちに伝えます。「見通しを持って活動を行う」ことと「プログラム間の切り替え」の練習になります。
また、1つ1つのプログラム内でも、できるだけ定量化することを心がけています。
例えば、チャレンジトレーニングでV字バランスを行う際は、最初は30秒、それができたら60秒と時間を決め、子どもたちにちょっとずつ負荷を上げていきます。そのためには、30秒できた時に子どもたちをスタッフが全力で褒めることが重要になります。
活動が集中して行える環境をいかに作るかがプログラムの肝
子どもたちは様々な発達の特性を持っています。
自閉症スペクトラム障害(ASD)の傾向が強いお子さん、注意欠如多動性障害(ADHD)の傾向の強いお子さんなど様々です。しかし、一人ひとりの特性はみなさん違います。
集団活動では、それぞれの特性を理解した上で、適切なプログラムを組み、適切な環境、適切な指導方法が必要です。
目的は、「子どもたちが楽しく、全力で行える」こと。そして最後の感想を言ってもらう場面で「楽しかった、またしたい」と言ってもらえると、プログラムを作成実施したスタッフとして、これほど嬉しいことはありません。そのために、事前準備、環境設定が重要です。
次回は、今回の自閉症スペクトラム障害(ASD)背景から、感覚過敏等の支援に関してお伝えしたいと思います。
続き:自閉症スペクトラム障害(ASD)のお子さんの「感覚過敏」に配慮した教室運営とは?学校での集団活動が苦手な子どもと楽しく活動を行うコツ③
[参考文献]
佐々木正美(2002)「自閉症のTEACCH実践」岩崎学術出版社
執筆者:林原洋二郎
ヴィストカレッジ ディレクター。公認心理士。富山大学大学院人間発達科学部修了(教育士)、金沢大学子どもの心の発達研究センター研究員。富山福祉短期大学非常勤講師。物流企業の営業職、広域通信制高校センター長を経て現職。発達障害の就労支援と発達に特性を持つ子どもの療育(発達を促し、自立して生活できるように援助すること)に従事。『放課後等デイサービスにおけるプログラミングを利用した自己肯定感を育む支援』(日本教育工学会論文誌/2021)など多数執筆。