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読みもの

『つかみ』が大切!学校での集団活動が苦手な子どもと楽しく活動を行うコツ④

学習支援 2022.05.27

ヴィストカレッジディレクターの林原です。

ヴィストカレッジでは小学生向けに集団ワークを実施しています。

 ・プログラミング教室(ビスケット、スクラッチなど)
 ・ソーシャルスキルトレーニングクラス(小学生低学年向け、高学年向け)
 ・運動教室
 ・就学前準備クラス(未就学児)、就学支援クラス(小学校1年生)
 ・イベント活動

各事業所ごとに対象となる子どもの年代、子どもの層、支援の目的、子どもの興味関心に応じて様々な集団ワークを実施しています。

集団ワークを運営するにあたり、ワークを開始する前の『つかみ』はとても重要になります。今日は『つかみ』に関してお話します。

『つかみ』とは何か?

『つかみ』とは、 相手の気持ちを引きつけること。辞書的な意味では「講演や説明会の最初に聴衆の関心興味を高めるために話す事柄。(デジタル大辞泉)」と書かれています。

ヴィストカレッジの集団ワーク(運動教室)を例にご説明します。

ヴィストカレッジでは、以下のような流れでワークを進行しています。

⑴ 最初のあいさつ
⑵ 準備体操
⑶ 体力測定
⑷ 綱引き大会
⑸ 逃走中!(鬼ごっこ)
⑹ ワークの感想を子どもたちが話す
⑺ 最後のあいさつ

『つかみ』とは、先生の指示を聞いてもらうため、「(1)最初のあいさつ」をする前に、子どもの注意、興味を集めるために行う活動のことです。

「(1)最初のあいさつ」が始まる前に子どもたちは、それぞれが好きなことをしている状態です。

教室で走りまわっている子ども、好きな本を読んでいる子ども、他のお友達と遊んでいる子ども、などなど。発達に特性を持っている子ども(特に自閉症スペクトラム障害の傾向のある子ども)は、先生の最初の話を聞くことが苦手なケースが多いです。
(その背景に関しては過去の記事を参照)

集団活動がうまくいっていない様子を見ると、子どもが最初の指示を聞けていない場面をよく見かけます。

例えば、先生が話し始めているのに、子どもは本を読み続けたり、外を眺めていたり、隣の子どもと話をしていたり。つまり、一斉指示を聞く「準備」が子どもにできていないのです。

発達に特性を持っている子ども(特に、自閉症スペクトラム障害を持つ子ども)は「シングルフォーカス」という学習スタイルを持っており、2つのことを一度にするのが苦手です。

集団活動がうまくいくためには、まず、最初の先生が活動の説明をする際に、子どもが他の行動をやめて、先生の指示を聞く準備を作る必要があります。

『つかみ』は、子どもたが一斉指示を聞く準備をするため、子どもたちが「面白そうだから、先生の話を聞こう」と準備を促すための活動です。

どんな『つかみ』が有効か?

⑴ 発達の特性合わせた活動であること

「自閉症スペクトラム障害児者の対人相互交渉やコミュニケーションの支援を行うにあたり、同じ障害特性を持つ物同士の小集団活動の中での体験保障が重要であることを指摘している」(2015、加藤ら)が述べているように、子どもたちの発達の特性に合わせたものであることが重要です。

特に、自閉症スペクトラム障害の傾向のある子どもは「視覚優位」「音の弁別が苦手(たくさんある音の中から支持されている音を聞き取るのが苦手)」「シングルフォーカス」といった特性をふまえて学習スタイルを検討する必要があります。

⑵ 本人たちが興味のある内容であること

「本人たちの興味のある領域で展開する余暇活動は、共通の興味を分かち合う相手との仲間関係や活動拠点が形成されやすく、基盤作りの有効な手段となりうる」(田村ら,2014)と述べているように、子どもたちが興味を持てる内容である方が効果的です。

⑶ その後の活動に連続性があること

運動教室での「つかみ」は、体を動かすことにつながる方がその後の活動に繋げやすいですし、プログラミングの集団ワークでは、パソコンやタブレットを使用する活動がその後の活動にも繋げやすいです。

⑷ インパクトがある程度あるもの

集団活動に入るには、子どもがそれまでやっていた遊びを止める必要があり、子どもの特性に応じて、わかりやすく魅力的なインパクトが必要になる可能性があります。

『つかみ』の具体的な活動例

運動教室(未就学児、小学校低学年)の場合

動物クイズ

イラストを見せて動物名を当てるクイズを行います。その後、動物体操(動物の動きを真似る体操)へと接続します。

新聞紙やぶり

「この新聞紙をみんなで破りましょう」と新聞紙への集中を促します。
その後、破った新聞紙を丸めてテープでとめ、カゴの中への玉入れなどに接続します。

プログラミング教室(小学生全般)の場合

間違い探し

YouTubeなどで「間違い探し」と検索するとたくさん出てきます。対象の年齢に合わせて実施します。その後、タブレットやパソコン活動へと接続します。

アハ体験

YouTubeなどで「アハ体験」と検索するとたくさん出てきます。間違い探しと比較して難易度は上がります。ワーキングメモリーが低い子どもが集まる際には注意が必要です。

就学準備前クラスの場合

3ヒントクイズ

紙に3つのヒントを提示し、1つの答えを導きます。ヒントは「写真」「イラスト」「ひらがな」「漢字を含める」など様々なバリエーションがありますが、集団を構成する最も低年齢の子どもに合わせます。その後、机上課題へ接続します。

イラストあてゲーム

スタッフが書いたイラストが何のイラストかを当ててもらいます。回答の特徴のみ残し、下手な絵を書くのがポイントです。その後、机上課題へ接続します。

基本は座って話を聞ける状態に持っていくのがベスト

「集団活動が苦手」な子どもが、楽しく指示を聞く準備として『つかみ』の活動を説明しました。

言葉の指示は一度脳を通り過ぎると残りません。子どもたちがやりたくてもできないのは、口頭だけの指示を聞いていなかったために「何をするかがわからない」可能性が高いです。

『つかみ』の活動と合わせて、「座って活動の指示を聞く」ことも大切です。

画像はイメージです

「シングルフォーカス」の子どもたちは、「立つ」と「話を聞く」が同時に行われていると集中できてないない可能性があります。

特に、活動の実行機能を司る前頭葉は遅れて発達するため、小学年の低学年までは特に2つの活動を行うのは苦手です。

最初の指示だけでなく、先生が指示をする際は「座って話を聞く」を徹底した方が安全に集団活動が実施できると思われます。


[引用元・参考文献]
田村茉奈・柿沼智美・川淵竜也・小林潤一郎(2014):自閉症スペクトラム障害の学齢児の興味・関心を広げる機会-参加プログラムの選択と自己理解-.明治学院大学心理学部附属研究所年報、第7号、63-72.

加藤浩平・藤野博(2015):TRPGサークルに参加するASD大学生の語りの分―余暇活動を通したコミュケーション支援の観点から―.東京学芸大学紀要総合教育学科系Ⅱ、66、333-339.

執筆者:林原洋二郎
ヴィストカレッジ ディレクター。公認心理士。富山大学大学院人間発達科学部修了(教育士)、金沢大学子どもの心の発達研究センター研究員。富山福祉短期大学非常勤講師。物流企業の営業職、広域通信制高校センター長を経て現職。発達障害の就労支援と発達に特性を持つ子どもの療育(発達を促し、自立して生活できるように援助すること)に従事。『放課後等デイサービスにおけるプログラミングを利用した自己肯定感を育む支援』(日本教育工学会論文誌/2021)など多数執筆。

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