13人でつなぐリレー短編小説〜おばあさんと暮らす一匹のネコのはなし〜
複数人で文章を繋いでいく「リレー小説」。どんな展開になるかは最後まで分からない、思っていたものと違う方向になることもある…けれど、それが面白いところです。
春に富山で行われたヴィスト主催のアートイベント「MyFavorite展 2022〜好きが私の原動力〜」では「みんなでつなげる体験型アート」と題して、会場に用意した原稿用紙に、子どもから大人までの来場者と一部スタッフを含む、計13人の方が物語を綴ってくださいました。
今回はその時の物語をご紹介します。
(文章は出来るだけ作者本人が執筆した内容で掲載しています)
13人でつなぐリレー短編小説
昔々あるところに一匹のネコがいました。ネコは歳を取ったおばあさんと一緒に暮らしていました。おばあさんはいつも忙しそうに動いていましたが、決まった時間になるといつもご飯をくれました。
そのご飯はいつも同じ銀色の皿で出てきました。お皿いっぱいに盛られたご飯をネコはいつも楽しみにしていました。そんなある日いつもの時間になっても御飯が出てきません。どうしたんだろう?
おばあさんの部屋に行くと、おばあさんはベッドで寝ていました。ネコは心配になっておばあさんの枕元まで駆け寄りました。するとおばあさんは苦しそうに胸を押さえていました。
ネコは心配そうにおばあさんの顔を覗き込み、「にゃあ」と鳴きました。おばあさんは、「大丈夫よ」と言い、ネコの頭を撫でました。しかし、撫でる手がいつもより元気がなく、ネコはやっぱり心配になりました。ネコは、何とかおばあさんを元気にさせたいと思いました。
そこでネコは、お医者さんを連れてこようと思い、家を飛び出しました。家から病院までの距離はかなりありましたが、ネコはおばあさんのために必死に走って病院へ向かいました。住宅街を駆け抜け、やがて市街地につき、人ごみの中をネコは必死に駆け抜けていきました。すべてはおばあさんを助けるために・・・・・
人にぶつかりながらも何とかネコは病院にたどり着くことが出来ました。病院に着いて、対応してくださった方に「どうされましたか」と尋ねられ、ネコは困りました。日本語を話すことが出来ません・・・。
ネコは考えました。どうしたらお医者さんにおばあさんを診てもらえるのか。ネコは張り上げた声で鳴きました。お医者さんはネコの鳴き声でただ事ではないことに気づきますが、それが何かはわかりません。ネコは思いつきました。その瞬間かがんでいたお医者さんの胸ポケットにさしていたペンを奪い取りお医者さんを誘導することにしたのです。
奪い取ったペンをネコはくわえておばあさんの家の方へ走り出しました。5メートルくらいのところで止まって、お医者さんの方を見ます。しかしお医者さんはきょとんとしてネコの方を見ています。ネコはしびれを切らして、お医者さんに駆け寄り、ジャンプして顔の眼鏡をひっかき落として、眼鏡をくわえて走り出します。お医者さんは顔を真っ赤にしてネコを追いかけ始めます。
ネコは人ごみを掻き分けて走ります。お医者さんがついてきているか何度も振りかえります。そんな猫の様子に、眼鏡を奪われていたお医者さんも、何やらネコが自分を呼んでいることに気づきます。まあ、眼鏡をとられて視界が悪いので、なんとなくですがね。それでも困っている他者をほおっておけないお医者さんは自分の直感を信じ、ネコを懸命に追いかけます。
ネコは仕方ないので、人の皮をかぶって化けることにした。化け猫だ。人の皮をかぶると、人並みに二本足で歩けた。ネコは人になり医者に呼びかける。「お願いがあります。おばあさんを助けてください。」医者は、この人がネコであることに気づいた。
医者はネコが化けた若者に手を引かれ、一軒の家に入ると、そこにはおばあさんが苦しそうに寝込んでいた。持病の薬を飲ませると、おばあさんはすぐに良くなった。「はて、この方に若いご家族はいたのだろうか?」医者が振り向いた玄関には、ネコに奪われたはずのペンが落ちているだけで、誰の姿もなかった。
―15分前―ネコは困っていた。医者が立ち止まり、芝生にしゃがみ込み、何かごそごそと探していた。急ぐのを中断するほど重要なものを落としたらしい。仕方ないので一緒に探すことにした。それはすぐに見つかった。緑色の宝石だ。その宝石には妖力が宿っており、ネコが触れるとその妖力が体を覆い体の自由を奪う。それをおばあさんに教えてもらったネコは逆に妖力を利用し人に化けたのだ。
その夜、ネコの前には、いつも通り、銀色のお皿いっぱいのキャットフードがあり、目の前には、おばあさんの優しい笑顔がありました。
あの後、元気になったおばあさんは、お医者さんにお礼を述べ、薬の飲み忘れには気を付けると伝えました。お医者さんは、時折首をかしげたりしながらも「大事にならずによかったです」と、少し急いで帰っていきました。
「今日はお互いたいへんだったねぇ~」
そうネコに話しかけ、おばあさんは、テーブルの上で美しく光る小さな緑色の石にも挨拶するように微笑み、また、優しくゆっくりとネコの頭を撫でました。
“ミャーオ”
カリ、カリ、とキャットフードを食べながら、ネコは、“今の、この時間がずっと続くように”と思いました。
また、“何か” があったとしても” “何とかできる” とも思えました。
完
いかがでしたか?
その時の空間で、その時の繋がりの中で生まれた、一匹のネコとおばあさんの物語。
それぞれが想像を膨らませ、前後の作者のことも考えながら、ペンを走らせたのではないでしょうか。とても味わい深いものになったと思います。
ご参加くださった皆様、誠にありがとうございました。